遷移金属酸化物の一種であるアモルファス酸化タングステン(α-WO_3)は、電圧印加で色の変化が起きるエレクトロクロミズムを示す。この現象を機能という側面から捉えた場合の特徴は、着色後に回路を開いても長時間その状態を保つメモリー効果を持つ事であり、ディスプレイ・不揮発性メモリーへの応用が考えられる。また、逆起電力も観測され、蓄電池としての機能をも持っている。本申請課題の目的は、数種の(遷移金属酸化物ゲル+有機物添加物)によって光・化学・電気エネルギー相互の変換機能を動作させ得る素子の開発を行う事であり、エネルギー蓄積可能な光電エネルギー変換系を構成し、反応機構の解明を行なうと伴に、ゾル-ゲル法の特徴を活かし高分子ゲルマトリックス中へ導入を行い、柔軟で折畳み・大面積化が可能な光電変換・蓄積機能を持つ新規素子の可能性を探る事である。 初年度は製膜技術確立のための基礎物性の研究を重点的に行なった。フォトクロミズム・エレクトロクロミズム複合系セルの試作にはまず有機分子配合試料で薄膜を作成する手法を確立する必要があり、その力学特性について調べた。タングステン酸に添加する高分子の量によって薄膜の力学物性を調整する必要性があり、高分子のタングステン酸への添加はフォトクロミズムやエレクトロクロミズムの増感をもたらすが、力学物性の調節との兼ね合いで実際の製膜のための最適値は膜のサイズに依存する。特に、ゲル化による構造の変化がその後の特性に大きな影響を与えるので、構造評価が必要である。2年度は複合系セルのための高分子ゲルマトリックス構造の評価、およびフォトクロミズム・エレクトロクロミズム複合系についての知見を得るため、構造的に同様なものとなると考えられる色素増感型太陽電池との比較検討を行った。高分子ゲルマトリックス構造については基礎データの蓄積により多くの知見を得た。また、色素増感型太陽電池、すなわちグレッツェル・セルの微結晶構造とタングステン酸ゲルの構造は類似のものであり、フォトクロミズム・エレクトロクロミズム複合系セルとの類似点が多いことが分かった。
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