本研究では、まずMelt-Casting法(MCP)で作製した矩形Bi2212バルク超電導体の臨界電流値、n値、臨界温度を調べた。次に、臨界電流密度分布を測定し、その分布が交流通電損失に及ぼす影響を調べ、MCP試料の輸送特性を明らかにした。今年度の研究によって得られた成果は以下の通りである。 1.断面が4.5×13.6mm^2の矩形試料は液体窒素温度で53.8Aの臨界電流値を示した。この試料のn値は7.7であった。また、零抵抗温度は84Kであった。これらの結果は、MCP試料が基本的な輸送特性において十分に電流リードの母材になることを示している。 2.MCP試料の交流通電損失には周波数依存性がなく、ヒステリシス損が支配的であることがわかった。 3.断面が4.5×13.6mm^2の矩形試料の交流通電損失は、超電導電流が一様に流れていると仮定したノリスの理論値とほぼ同じであった。一方、断面が7.5×7.5mm^2の正方形試料の交流損失は、理論値よりもかなり小さいことがわかった。 4.正方形試料の臨界電流密度分布を測定した結果、超電導電流は表面から1mm以内の領域に集中して流れていることがわかった。実測した臨界電流密度分布と断面形状を考慮して正方形試料の交流通電損失を計算した結果、測定値とよく一致した値が得られた。したがって、MCP試料では表面に集中している電流分布が磁束侵入領域を制限し、交流通電損失を抑えていることが明らかになった。 5.商用周波数における交流通電損失は通電電流50Aで単位長さあたり10mW程度と小さく、Bi2212バルク超電導体を利用して電流リードを開発できることが明らかになった。
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