研究概要 |
本研究は,Bi_2O_3-Fe_2O_3-PbTiO_3三元系スパッタ薄膜の磁界印加による誘電率が変化する機構を明らかにすることを目的に行った.過去の研究結果より,本試料は強磁性クラスタがガラス状誘電マトリクス中に無秩序に分散したナノ・コンポジット構造を持つと考えられるが,まず誘電体マトリクスの性質を調べる目的で,膜の誘電率εr'と磁界による誘電率変化Δεr'(H)の温度特性の測定を行った.その結果,εr'およびΔεr'(H)ともに類似した温度依存性を持ち50℃以上で急速に増大することが分かった.これは両者が同じ機構によって生じ,誘電マトリクスのガラス・ネットワークのソフト化が50℃付近で起こるものと考えられる. 次に本物性が電荷変位による真性の誘電率変化であることを確かめるために,印加磁界を変化させた時に流れる変位電流測定を行い,これを時間積分して磁界による電荷変化を求めた.そしてこの結果が,従来の交流ブリッジによって求めた誘電率の磁界依存性と良い一致を示すことが分かった. 更に直流磁界に小さな交流磁界を重畳して薄膜に印加し,磁界印加による電気分極が誘導されることを実験で確かめた.これは一種の(EM)H-効果と考えられ,従来のEM-材料と異なり室温で観測される顕著な現象と考えられる. また,強磁性クラスタの磁界回転という簡単なモデルを提唱し,磁化曲線から算出した磁化回転角を用いた計算によって磁界誘導電気分極の実験結果を定性的に説明できることを示した.
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