反応性スパッタ法で作製したBi_2O_3-Fe_2O_3-PbTiO_3三元系酸化物薄膜は、室温で強磁性と強誘電的挙動を示す特異な物性を持ち、600℃の大気中熱処理によって磁化が発現し、高温の熱処理後もアモルファス状態となっていることが分かっている。更に、室温で磁界印加により膜の誘電率が最大で約1%程度変化し、誘電率変化のパターンが膜の磁化特性と密接に関連していることが見い出されている。これは新しいタイプの磁気電気効果として、新規の機能性デバイスへの応用を拓く可能性が期待される。 今回の研究では、まず磁界印加による誘電率変化と磁化特性との関連を明らかにするために、熱処理温度依存性を調べた。その結果、誘電率変化の大きさやヒステリシスの形状は、熱処理後の磁化特性を強く反映しており、磁化の回転によるシンプルな現象論的なモデルを用いた計算結果と極めて良い一致を示すことが分かった。また、1Hz〜1MHzの広い周波数範囲で磁界による誘電率変化が確認された。 これまで薄膜の結晶構造はアモルファス状態であると考えてきたが、数kOeに及ぶ高い保持力と10^7Ωmの高い電気抵抗率から、実際はガラスネットワーク状の誘電体マトリックス中に、回折法では検出困難な微細な強磁性クラスタが分散したナノコンポジット構造を取っていると推察される。そこで次に、誘電体マトリックスの性質を調べるために、膜の誘電率と磁界による誘電率変化の温度特性を測定した。 一方、この誘電率変化が見かけ現象では無いことを確認するために、磁界印加時の薄膜表面の電荷変化を電位電流として測定することに成功した。更に、交流磁界を印加した際の誘導電圧を測定し、磁界によって電気分極が誘導されることを確かめた。加えて、この実験結果を先のモデルを拡張したナノコンポジット構造における強磁性クラスタの磁界回転モデルで定性的に説明した。 一連の実験によって、磁界印加による誘電率変化が、見かけの現象ではなく、一種のME効果で生じた電気分極に起因することを確認することができた。可視から近赤外にわたって高い透過率を有するこの薄膜の特性を生かし、室温で動作する新しいタイプの光電子素子への応用を目指して、今後も研究を続行する所存である。
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