現在モニターテレビなどに用いられているブラウン管は、他の画像表示装置に較べて色の再現性や彩度、視野角の点で極めて優れている。このブラウン管には熱陰極が使用されているが、高温動作、フィラメントの寿命等の観点から、熱陰極を小型化して薄型平面ディスプレイに応用するのは困難である。そこで、常温で電子放出が可能であり、微小集積化も容易な冷陰極の検討が進められている。この研究では、トンネル型冷陰極電子源(トンネルエミッタ)を開発し、これを用いて微小ブラウン管ともいえる発光素子を試作し、薄型ディスプレイ装置への応用の可能性を確かめることを目的としている。その結果をまとめると次のようになる。 1.RFプラズマ酸化法を用いてSi(100)基板上に20〜35nmの酸化膜を形成し、表面の様子とストイキオメトリをAFMとXPSを用いて評価した。酸化膜表面は比較的平坦で、表面はSiO_2であるが、内部はSiの低級酸化物であることがわかった。 2.形成したトンネル絶縁膜の上に厚さ10nmの金電極を蒸著し、トンネルエミッタを作製した。プラズマ酸化後のハロゲンランプアニールと絶縁膜の厚さの最適化により、厚さ20nmの絶縁膜を用いたエミッタからの放出電子電流密度5.8μA/mm^2、最大放出効率(エミッション電流/ダイオード電流)2.4%を褐ることができた。また再現性も良く、デバイスへの応用実験が可能な電子源が実現できた。 3.電子放出面積1mm^2のトンネルエミッタを試作し、加速電圧0.5kV〜2.5kVでエミッタの直上1mmの位置にあるZnS・Cu・Al蛍光面の発光を、10^<-5>Pa台の高真空中で観測した。放出電流密度1μA/mm^2、加速電圧15kVで発光が確認でき8時間の経過後も電流値、発光強度の変化は認められなかった。以上のように、トンネルエミッタの微小ブラウン管素子への応用の可能性を示した。
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