直接描画可能な電子線リソグラフィー技術の進展は線幅80nmノードを超える次々世代半導体プロセスにとってその進展が期待される重要な技術である。このウエハー直描法の実用化にとって、その重要な課題はスループットの克服であり、3〜5枚ウエハー/時間の高速性が要求される。この対策の一つがマルチ・マイクロコラムによる並列描画の実現であり、このために必要な技術が、(a)マルチ・マイクロ電子源の実用化、(b)描画用マルチ・マイクロコラムの電子光学設計、(c)マルチコラムへの制御信号の安定給電法である。 当研究課題において、(1)有限要素法を用いた3次元電磁界解析シミュレーション、(2)マイクロコラムにおけるビームON OFFや偏向制御における電子ビーム特性、(3)マルチ化によって発生する隣接コラム間で干渉効果、(4)マルチビームに適用できる磁界レンズや偏向系の設計、(5)光学系への給電配線の形状とその電気特性、(6)コラム内およびコラム間ビームに対する空間電荷効果、の各項目が実現のためのキー要素であり、これらについて考察を行った。 (1)については、市販ソフトウェア「ローレンツ3D」の購入により対応した。(2)については、電子銃グリッド電極のON OFF制御方式と偏向器と絞りを用いたブランキング方式を比較検討した結果、コラム間の誘導が小さい前者が優位であることが分かった。(3)については、コラム間隔を100μm程度まで接近させたとき、コラム間に遮蔽電極が不可避であることが判明した。(4)については、決定的な形状設計に至らず、継続的な検討課題として残った。(5)については、ストリップ線での誘導が大きく、シールド機能を持つ同軸線のような構造が必要となる。(6)については、空間電荷効果によるビーム径とビームの位置の変化は、ビーム強度(これはスループットに反比例)に比例し、マルチビームからのクーロン力をベクトル的に考慮した位置に対する補正が必要となる。 マルチ・マイクロコラムによる電子ビーム直描法は次々世代リソグラフィー技術として十分期待できることが示されたが、色々な課題も山積している。検討結果は日本学術振興会第132委員会などで発表済みであるが、定量的な考察が未完成なため学会には未発表である。
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