通常、光波が伝播可能な媒質の屈折率は光波長により異なっており、媒質の波長分散特性と呼ばれる。このような媒質中を、広帯域な波長成分を持つ超短パルス光が伝播すると、波長分散特性の影響で、超短パルス光に含まれる各波長成分間に位相差が生じ、パルス形状が乱れ、品質の悪い光パルスとなる。本研究では、光パルスに含まれる各波長間の位相分散をアクティブに補償することで、この位相の乱れで劣化した光パルス形状を、品質の良い光パルスとして出力できるシステムを構成することを目的として研究を進めている。 本年は、位相補償を行うために必要な空間光変調素子の設計・製作・特性の評価を行った。これまでの研究から、フォトリフラクティブ多重量子井戸構造デバイスの基本的な回折特性、変調波長特性は明らかになっていたので、その特性を基に、二種類の量子井戸構造の複合したデバイス構造を提案した。構成する多重量子井戸構造を二種類とし、利用できる波長を制限することで、デバイスの示す回折効率の向上をねらい、構成するシステムが安定に動作することを期待して設計を行った。分子線エピタキシー法で作成する多重量子井戸構造は、クボタ(株)のご好意で、こちらの設計通りのデバイスを無償で製作してもらった。作成されたデバイスの吸収スペクトルを測定した結果、設計通りの良好なエキシトンピークが観測された。デバイスの準備は完了しているが、超短パルスレーザ光源が未完成である。今年は、超短パルスを発生するチタンドープのサファイア結晶に青色光レーザでポンピングをおこない発生する赤外光をレーザ共振器で閉じ込めて、連続波を発振させる所まで成功している。現在、レーザ共振器構造の高精度の調整を行うことで、モード同期を起こし、超短パルスとなるように調整中である。調整中のレーザから超短パルス光が発振次第、多重量子デバイスの超短パルス変調特性を測定し、その後アクティブ位相分散補償システムを構成する予定としてしている。
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