研究概要 |
本研究は、アダプティブアレーアンテナによる高精度かつ高速な到来波推定を行うことを目指すものである。平成14年度は、前年度に行った各種アルゴリズムの検討をもとに,そうした研究をさらに発展させるとともに,実際に到来波推定システムを実装して動作を確認した. まず,前年度検討を行った固定小数点ディジタル演算での演算精度に関して、具体的な場面を想定して必要ビット長を特定した.代数演算法を用いる場面では4素子,それ以外の場面では4〜10素子のリニアアレーアンテナを用いた場合について、SN比や到来波数などの電波伝播環境を変化させつつ、必要ビット長と到来波推定制度についての見当を行った.その結果32,ビット程度のビット長があれば,ほとんどの場面において,MUSIC法やESPRIT法などの到来波推定のための演算は精度良く実行できることを確認した.特定の場面においてはビット長をより短く設定できることを確認することが今後の課題となる.また,固有値演算やMUSICスペクトルの計算などの計算が複雑なプロセスについては,更に計算効率改善の余地があると思われる.こうした点も今後改善する予定である。 次に,FPGA (Field Programmable Gate Array)上での到来波推定アルゴリズムの実装についての検討を行った.高速移動通信実現のためには,到来波推定を極めて短い時間内に処理する必要があり,そうした目的のためには並列演算・フレキシブルな処理が可能なFPGA上での実現が適当であると考えられる.FPGA上での演算は一般的には固定小数点演算に限られるが,上述の固定小数点演算に関する検討から,精度良い推定が可能であると言える.本研究では,MUSIC法をFPGA上で実現することを目標とし,まず固有値分解プロセスの実装に関する検討を行った.固有値分解にはヤコビ法を用いるとともに,CORDECと呼ばれるアルゴリズムを基本としている.これらの手法に基づいて設計したシステムが実際に動作すること,演算精度も十分であることを確認した.処理時間も極めて短く,MUSIC法を実現するうえでの最も複雑なプロセスが実装できたと言える.今後は,このシステムを用いることで,MUSIC法またはそれに類する到来波推定アルゴリズムを実装し,その動作を確認するとともに,より効果的な並列処理方法を検討することで処理時間の短縮を目指すことが課題となる.さらに,MUSIC法の実装と並行して,RLS (Recursive Least-Square)と呼ばれる最適化手法に基づく到来波推定アルゴリズムのFPGA実装についても検討を行った.ここでも,必要ビット長など,FPGA上での実装に不可欠な基礎検討を行うとともに,演算精度等について確認した.その結果,一般的には固定小数点演算での実現は難しいとされているRLSアルゴリズムを,到来波推定の問題に限定すれば,精度良く実現できることを検証した.今後は実際にFPGA上で実装し,動作確認を行う予定である.
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