研究概要 |
本研究は,アダプティブアレーアンテナによる高精度かつ高速な到来波推定を行うことを目指すものである.平成15年度は,3年間の研究のまとめとして,システムの実装に関する研究を主として行い,製作したシステムの性能を評価した. まず,到来波推定を行うシステムとして,Unitary MUSIC法をFPGA (Field Programmable Gate Array)上に実装してその性能を評価した.固有値分解や時間周波数変換などの処理が複雑で時間を要するが,こうした処理を簡潔に行う構成を提案し,結果として1回の推定を約30マイクロ秒で行うシステムを実現した.このシステムの推定精度の評価を行い,良好な推定精度を得ていることを確認した.本研究成果は国内の学会および国際会議で報告されいる. また,到来波を分離し所望波のみを抽出するアルゴリズムとして,MMSE (Minimum Mean Square Error)アダプティブアレーアンテナ,特にRLS (Recursive Least Square)アルゴリズムをFPGA上で実装してその性能を評価した.ここでも固定小数点演算による精度の劣化が問題となるが,十分なビット長を確保しておけば良好な到来波分離精度を得られることを確認し,そのビット長について検討した.ウエイト更新アルゴリズムに工夫を加えることで,数十万ゲート程度の規模のFPGA上でもRLSアルゴリズムを実装できること,同時に,十分な到来波分離精度が得られることを確認した.本研究成果も国内の学会および国際会議で報告されている. また,システム実装の研究と並行して,アルゴリズムについての研究も行った.従来フーリエ変換を基本として考えられていた時間周波数変換にウェーブレット変換を用いることで,圧倒的に少ない演算量で同程度の精度を実現する到来波推定・分離アルゴリズムを提案した.特にアンテナ素子数が多い場合など,計算が複雑になった場合に有効であることを示した.本研究成果は国内の学会で既に発表され,今後国際会議にて報告予定である. 以上のように,今年度は,FPGA等のディジタルシステム上でのシステム実装とその性能評価を主として行い,並行してこれまで同様に高速高精度なアルゴリズムの検討を行った.特にシステム実装では,1回の推定に数十マイクロ秒という極めて高速なシステムの実現を可能にした.今後第4世代移動体通信技術において必須となるシステムのひとつになるものと期待できるシステムである.
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