研究概要 |
マルチメディア移動通信の高速化で,5GHz帯の利用が注目され,高速ワイヤレスアクセスの特徴を生かした5GHz帯無線モデム搭載のノート型パーソナルコンピュータ(PC)やその他の情報端末の登場が予想される.この種のPCに装着するアンテナの設計に際しては,PC筐体やPC近傍で作業する人体との電磁的結合を考慮することが必要不可欠である.しかしながら,計算機設計においてはPC及び人体を5GHz帯で忠実に模擬することは,計算機容量の制限で容易ではない.本研究では,この種のアンテナ設計法の確立を目指して,マルチグリッドFDTD(Finite-Difference Time-Domain)法の通用を検討した.この着想は,アンテナ放射特性だけに注目すれば人体の詳細模擬は不必要であるが,人体内部での電磁吸収に注目するときは,アンテナ近傍の人体組織だけ詳細に模擬すれば十分であることに基づいている. 今年度では,まず5GHz帯標準ダイポールアンテナと人体頭部との電磁結合の解析にマルチグリッドFDTD法を適用し,その有効性を実証した.次に,PCに装着するアンテナに対して計算機設計を行い,5GHz付近で1GHzの帯域内でリターンロスが-9.5dB以下となるモノポール型アンテナの構造を明らかにした.さらに,米国空軍研究所が磁気共鳴像(MR I)データから開発した高精度人体全身モデルを導入し,前述のアンテナ特性に対する人体影響及び人体内部での電磁吸収特性を解析的に明らかにした.その結果,5GHz帯においては,人体が存在しないときでもPCの存在によりアンテナ指向性は複雑に変動しているが,その変動幅が10dB程度以内で,水平面においてほぼ無指向性に近い放射特性を示すこと,人体の存在により,人体方向の指向性が10dB以上劣化しディップが生じること,などがわかった.さらに,アンテナ入力インピーダンスに対しては,人体の有無による変化は10%以下であり,また人体による吸収電力はアンテナ出力電力の2割未満であることもわかった.一方,人体内部での電磁吸収量は,アンテナ側の胸部で最大となり,次いで下顎の部位であること,しかし,アンテナ出力電力を1Wとした場合でも人体内部での局所比吸収率は人体防護基準値に比べて十分に低いことがわかった. 来年度は,5GHz帯携帯情報端末用アンテナ設計に対して適用したマルチグリッドFDTD法に基づき,この種のアンテナ設計に適する人体モデリング法の確立を目指す.
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