研究概要 |
情報機器の静電気放電(Electrostatic discharge : ESD)による電磁障害は発生の予測が極めて困難であり,インテリジェント高層ビルにおいては高分子材料の使用拡大や空調設備の普及などが不測の障害発生に拍車をかけ,事態を一層深刻にしている.それ故に,高層ビル床面上における歩行人体の帯電機構を解明し,電位減衰特性を定量的に把握することはESDの有効な予防策に繋がる.この観点から本研究では床面上における人体帯電機構に関して理論と実験の両側面から検討を行った.本年度の研究成果の概要は以下のとおりである. 本研究ではこれまでに,無帯電状態からの歩行開始による帯電を基本モデルとし,着地側の靴底を通しての人体帯電電荷の床面への漏洩過程を説明し得る等価回路を提案したが,蹴り上げた靴による床面の足跡面電位の振る舞いについては明らかではなかった.前年度は,床面に誘導された電荷による床面電位を予測する等価回路を新たに提案し,併せて足跡面電位分布測定装置を製作,人体電位と足跡面電位め同時測定を行ったが,製作装置の不備から足跡面電位が測定できず,それ故に提案等価回路の定量検証には至らなかった. 今回,足跡面電位装置を再設計・製作する一方,電荷漏洩過程を表す等価回路を再度検討し,床面電位の測定値との対照から足跡面電位の等価回路の有効性を検証した.まず,帯電人体が片足を上げた際の足跡面上の電位を表計算式を人体電位と同じくラプラス領域上で導出し,数値逆ラプラス変換で電位を数値的に求めた.一方,人体電位と床電位は,回転セクタ型電位計(電位計)を用いた電位測定装置で人体の充電電圧をパラメータとして同時測定した.前年度と同じく,等価回路から導かれた回路方程式による数値シミュレーションの結果と測定で時間推移の電位波形とを比較したところ,人体電位の初期電位(充電電圧)で規格化した電位減衰特性は,充電電圧とはほぼ無関係に同じ傾向を示し,計算値ともよく一致した.一方,足跡面電位の初期値で規格化した電位減衰特は充電電圧に拘わらず計算値とよく一致したが初期電位は充電電圧とは必ずしも比例しないことが判明した.この原因は,足を上げた際に靴底と床面との剥離帯電で発生した電荷が床容量を新たに充電することで床電位が変化するのであろうと推察されるが,その確証はない. 歩行に伴う床面状の発生電荷とその動的振る舞いを把握することが今後の課題となる
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