平成13-14年度、情報理論的立場から情報セキュリティおよび乱数生成に関する研究が行われた。研究実績の概要は以下の通りである。 1.カオス2値系列の統計的性質: 近年カオスを呈する非線形力学系から生成される離散系列の情報通信、暗号への応用が試みられている。このようなカオスに基づく離散系列の上記の応用の有効性を論じるためには、有限長系列から計算される統計量について、その値の系列長の有限性に起因する空間平均値からの揺らぎを評価する必要がある。本研究では、カオスに基づく離散系列のあるクラスについて、この揺らぎを示す指数を陽に求める計算公式を与えた。 2.中継通信路を用いた秘密情報の伝送: 中継通信路を用いた秘密情報の伝送問題を考察し、中継者が通報の内容が明らかでなくても通信の手助けを行うことが可能かどうかを論じた。 3.雑音のある通信路を用いた情報同定: 通常の情報伝送では、1つの受信機が受信信号から送られた通報を推定するのに対し、情報同定では、通報ごとに受信機が対応していて、各受信機は、受信信号に基づき、送られてきた通報が対応した通報と一致するかどうかだけを判定する。このような情報同定は情報セキュリティの分野における個人認証の問題と深い関係がある。一般に、情報同定において、送信符号の伝送率がその限界を超えるとき、同定誤り確率は、送信系列長を大きくすると1に収束することが証明されている。本研究では、その収束の速さを論じ、それが系列長の指数関数のオーダーであることを示した。更にその指数の下限を陽に求めた。
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