研究概要 |
本年度は,本補助金で購入した3次元計測装置をもとに人体頭部の計測システムを構成し,計測と精度の検証を行った.購入した計測器は,赤色のレーザー光を当てて,その反射を,カメラを用いて実時間で観測することにより,光が当たった物体の3次元形状を計測するものである.そのため,一度の計測では,光を照射した方向のみの形状が計測される.人体頭部のように凸な曲面をもち,さらに耳介部分などのように,光の当たりづらい凹凸をもった物体の形状を,精度を保って計測するのは困難である.このような問題を解決するものとして,被測定物を中心として,その周囲をレーザー光源が円形の経路に沿って走査する測定システムが存在する.このようなシステムは高価であるとともに,人体表面のもつ凹凸の計測については,本補助金で購入したものと同等の性能と考えられる.さらに,本補助金で購入した3次元計測装置は,容易に運搬が可能なのが大きな特徴である.頭部伝達関数の推定に対する3次元計測の有効性を検証するためには,多くの被測定者に対する頭部形状の測定が必要である.そのことを考慮すれば,本補助金で購入した3次元計測装置によって,どこでも手軽に複数の3次元計測が行えるシステムが構築でき,このことは今後の研究の進展において大きなメリットとなると考えた.本研究では,3次元計測システムの構築に注力した. 3次元計測装置は,1秒弱で一方向の測定を行うことができる.しかし,被測定者が人間の場合,測定時間中にわずかながら動くので,被測定者の顔や頭部などに1mm程度の大きさの目印(シール)をつけて測定を行った.ちなみに,光の反射しづらい頭部の形状は,競泳用のキャップを着用して測定した.人体の形状を8方向程度測定し,あらかじめつけた目印を基準として,それぞれの方向から測定した形状を貼り合わせた.基本的な精度を検証するために,測定時間中に動くおそれのない擬似頭(ダミーヘッド)で,同様の方法の測定を行った.その結果,2mm程度の誤差で測定が行えることがわかった.人間の可聴周波数の上限である20kHzの音の空気中での波長である約17mm比較すると,十分な精度が得られたとみなせると考える. 昨年度に作成した境界要素法のプログラムを用い,実際に人体周りの音場を計算するとともに,頭部伝達関数の推定を行った.ダミーヘッドや,昨年度に頭部伝達関数のデータベースを公開した被測定者を対象とした頭部伝達関数の推定を行った結果,頭部伝達関数の周波数によるピークやディップの位置など,その特徴は十分に推定できているが,それらの平均レベルと比較した大きさについては,実測と異なった.また,音源が,音圧を推定する耳の反対側にあるときに,実測結果と推定結果は大きく異なった.これについては,計算時に適用した人体表面の境界条件が実際と異なっていることと,実測時における各装置(スピーカやマイクロホンなど)の特性の影響が原因として考えられる.現在,この点に関して検討を深めている.
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