研究概要 |
本研究は,疾患に伴う生体組織の物理的変化とエコー信号情報との関係を詳細に検討し,単なる信号処理ではない有用な臨床診断法を確立することを目的としている。これまでに,複数の心疾患,肝硬変及び慢性肝炎患者を対象とし,組織の音響特性を計測した結果,正常組織と病変組織とで音響特性が多く異なることを確認している。また,ディジタル超音波診断装置を用いて収集したエコーデータについて,振幅分布特性解析を行った結果,正常組織からのエコー信号ではRayleigh分布でほぼ近似できるのに対し,病変組織では大きく異なる特性となることが確認された。 そこで本年度は,エコー信号中の非Rayleigh分布となる要素のみを統計的に抽出する手法を提案し,病変組織の3次元構造を認識することを試みた。正常・初期から重度までの慢性肝炎及び肝硬変の肝臓についてエコーデータを収集し,それらについてRayleigh分布からの逸脱度を算出するとともに,抽出処理を施した。ここで,Rayleigh分布からの逸脱度は,振幅確率密度分布をQ-Q確率プロットで表現することで算出される勾配を指標とした。勾配は,完全なRayleigh分布では2.0になることが統計的に示されており,逸脱度が高いほど低下する特性をもっているが,解析の結果においては,正常・慢性肝炎・肝硬変と病状が進むのにともない逸脱度が大きくなる(勾配が小さくなる)ことが確認された。また,非Rayleigh成分として抽出される情報が,正常・慢性肝炎・肝硬変の順で増加するとともに,病変組織(線維組織)の3次元構造が病変進行とともに明瞭になることが確認された。異なる処理法で解析した結果(勾配及び抽出量)において,両者の間に相関が見られることから,エコー情報には確実に組織正常の変化が含まれていると考えられ,視覚をのみを用いた通常の診断方法では困難な,病変の早期発見の可能性が示された。
|