体内の映像手段として超音波パルスエコーBモード法が用いられているが、経頭蓋の超音波脳内映像手段として用いることは困難である。それは、頭蓋を超音波が透過する際の減衰が大きいことが第一の理由であり、それ以上に頭蓋で音波が強散乱してしまい、弱散乱を仮定した画像構成理論の前提条件が損なわれてしまうためである。そこで、本研究では、以上の問題を解決して、脳内の音速断面像を定量的に再現できる逆散乱CT法を提示した。すなわち、数100kHz帯の低周波透過音波を頭部周囲上で観測し、取得データに用いることにより音波の減衰の影響を大幅に緩和することを可能にした。ただし、線形化近似逆散乱CT法は、対象物体の弱散乱性を前提にしているため、強散乱体である頭蓋を含む脳内CTにそのまま適用できない問題がある。そこで、本研究では、頭蓋の形状や特性が既知である前提の下に、頭蓋表面上で観測される透過散乱波を頭蓋透過前のデータへ一旦変換して、頭蓋散乱成分を取り除く方法を考案した。さらに、照射音場を差し引く計算により本来の前方散乱成分を取り出し、最後に線形化近似逆散乱解析を施すことにより音速画像を再現する方法を提示した。本手法の有効性を検証するために差分法に基づいたミュレーション評価試験を行った。ここで、成人男子の標準値に合わせて、最厚部の厚さ8.0mmの楕円形状の頭蓋ファントムを用意した。その内部には、血腫病変を模擬して、周囲に対して3%音速の速いROI領域を設定した。評価試験の結果、ROI領域の脳内音速映像が、形状ならびに、音速の定量精度ともに良好な形で再現できることが確認でき、脳内血腫領域の鑑別法として、本手法を役立てることができる見通しを示すことができた。
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