研究概要 |
当該研究は,視覚系の空間順応特性を測定し,得られる特性を代表者が提案している視覚情報処理モデルに組み込み,視角の小さな図形が明るく知覚される機構を明らかにすることを目的としている. 同時対比は白と黒に囲まれた2つの灰色の四角形のうち白に囲まれた方が黒っぽく,黒に囲まれた方が白っぽく知覚される錯視である.この現象を説明するひとつの仮説として,四角形部分が周囲の明るさの影響を受けてそれぞれ異なるレベルに順応することが示唆されている.すなわち,入力像に空間的なローパスフィルタをかけたような順応状態が存在するというものである.これを周辺順応と呼ぶことにする.周辺順応が実在するなら,視角の小さな図形ほど明るく知覚されるのはこの順応によるものと考えられる. 本年度は,補助金で購入した液晶プロジェクタを用い,明暗境界付近に呈示したスポットの明るさがどのように知覚されるかを測定した.スポットは明暗境界に対称に2つ呈示される.被験者は明暗境界上の画面中心を注視し,これらの明るさを比較する.スポットの輝度を変化させ,被験者が等しいと感じた明るさを求める.これを境界付近,±2°の範囲で測定したところ,注視点を中心とする半径1°辺りから中心に向かい値が変化した.このことは,注視点付近の感度がその周辺の感度と異なることを意味し,網膜中心窩で周辺順応が存在することを示唆する. この結果より,視角の小さな図形が明るく知覚されるのは,特にその図形を注視しているときであることが予想できる.来年度は,このことを検証するとともに,視覚系においてこの特性が果たす役割を調べるため,実際のシーンにこの特性を適用する予定である.
|