研究概要 |
新生児・未熟児の低酸素虚血症に起因する死亡や脳障害後遺症の防止に脳低体温療法が検討されているが、この療法の確立・進展・評価には脳深部温度の無侵襲且つ連続的な監視が必要となる。静岡大学では多周波マイクロ波ラジオメトリの原理に基づく脳内温度分布無侵襲計測法の研究を行っている。この方法は,生体から自然発生する極微弱熱雑音電磁波を体表に置いた導波管アンテナで受信・増幅し,適切なデータ処理法により温度分布を求めるものであり,大きな電磁雑音の中から非常に小さな電磁雑音を拾うという非常に高度な技術が要求される.システムは,1.2,1.65,2.3,3.0,3.6GHzの五つの高感度ラジオメータ受信機,基準雑音源,アンテナ、制御回路及び輝度温度測定、解析、温度分布推定プログラム等からなる. 五台の受信機の内、これまでに製作済みの1.2,1.65GHz帯に加えて2.3,3.0,3.6GHz帯を加えて五周波ラジオメータシステムを製作した.さらに各ラジオメータ受信機を単独及び全体で制御するプログラムを開発するとともに,そのために必要な周辺回路(バッファ回路,定電圧回路,定電流回路,電源回路)を製作した.電波暗室ではなく通常の室内で動作するために外来雑音対策、熱絶縁対策などを施した結果、実際にアンテナを接続した状態で較正実験が可能になり、5台の受信機に対してそれぞれ0.165,0.167,0.150,0.133,0.152℃の輝度温度分解能を得た.さらに新生児頭部MRIデータをもとにして脳内電磁波吸収率分布を求めてラジオメトリ重み関数を得た。この重み関数と温度分解能を用いて別途開発した温度分布推定シミュレーション法によって深部温度推定を行った結果、表面から5cmの中心部において約0.3℃の信頼区間で温度推定が可能であることを示した。当初の目標が1℃以内であることを考えると充分に目標を達成できる段階に達したと考えている。 今後はシステムの雑音対策を更に進めるとともに、脳内温度分布ファントムの製作を行いそれを用いて測温実験を行う予定である。
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