研究概要 |
X線CTは,病床診断だけでなく物体内部の非破壊観測手段として幅広く応用されている.近年,平面検出器の開発と相俟って,X線源を対象物体の周りで移動させ,コーンビーム状に広がった透過線量を2次元画像として観測した後,これらの観測データから3次元画像を再構成する研究が行われている.しかし,3次元画像を再構成するためのアルゴリズムは計算量が膨大であるため,心臓等の臓器の動きを実時間で観測するにはベクトル計算機のような超高速計算機が必要とされている.本研究では,この再構成アルゴリズムの中で最も計算量を費やしている逆投影計算に,近年信号処理の分野で注目されているサブバンド分析/合成法を利用することにより,3次元画像再構成のための時間を大幅に短縮する方式を開発することも目的とした.主たる成果を以下に列挙する. ・2次元再構成アルゴリズムの並列実装 Pentium3程度のパソコンを用いることにより256×256画素の提案法による実時間画像再構成(約30m秒)が1台により可能でありことを実証した.一方旧来法ではこのような並列処理が不可能で,提案法の従来法に対する速度利得は約30倍に達するという知見を得た. ・3次元再構成アルゴリズムの開発 次に,3次元完全再構成アルゴリズムの開発を行った.提案の2次元アルゴリズムの単純な3次元への拡張(3次元逆ラドン変換と考えられる)では,従来法に比較して約700倍高速化できるという知見を得た.Pentium3が有するSIMD命令を用いればさらに高速化を図ることが可能である. 一方Grangeatは,コーンビーム投影と3次元ラドン変換の関係を見出している.この関係はコーンビーム投影データを線積分(再投影操作と呼ばれている)すれば,その結果は3次元ラドン変換の微分に等しくなるというものである.そこで木構造分析フィルタバンクを用いることによりこの再投影操作が実行できることを確認した.このようにして得たデータを3次元対象物空間に木構造合成フィルタバンクにより逆投影することにより,3次元分布が再構成できることを確認した.結局,再投影も含めてコーンビーム再構成は直接法より約700倍高速で,数10台のDSPにより実時間再構成が課のであるとの見通しを得た.
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