研究概要 |
医用X線画像にはX線透過吸収量の積分値が投影されているので,重畳臓器の濃淡構造があまり複雑でない場合には,CTアルゴリズムによらずともX線画像から臓器構造を理解することが可能であると考えられる.本研究はこのような作業を機械的に実現するため,背景の濃淡変動(トレンド,シェーディング)の推定・除去の手法を開発することを目的としている.本年度は,画像中でX線吸収が極小である画素の濃淡値を補間する濃淡包絡面をもって背景変動分の推定とする方針のもとに,画像格子上に弾性ネットを自由落下させ,その整定状態を濃淡包絡面とする方法を開発し,電子情報通信学会医用画像研究会等で報告した.また,一般サイズ画像への対応を可能とし,また,局所的な位置ずれを解消するため,ソフトウェアを改良した.さらに,一応用として,胃X線二重造影像からの胃壁表面構造の鳥瞰表示の可能性を検討した結果,陥凹型ひだ集中病変は良好に表示できたが,隆起性病変に対しては効果が不十分であり,その原因は濃淡包絡面の懸垂によるものと考察され,改善の必要を認めた.また,対照のため,他の方法によるトレンド補正についても実験により検討した.空間周波数領域フィルタリングは高速な実行が可能であるが,縁・線強調の効果が出てしまい,また,トレンド補正によって濃淡が負値をとることがX線画像の生成原理と不整合であり,定量化への接近をも損なう.準同形フィルタリングは原画像の濃淡値がフィルムの光学濃度に対応している場合には不適合であり,また,濃淡変化を過剰に強調してしまう.線形予測による方法を含め,従来から信号処理に用いられている包絡線検出手法では包絡線が原信号の下部に潜り込むことがあるのに対して,本研究の手法では必ず上部に被ることが特長である.今後さらに,大域的な構造の改善および応用可能性について研究していく予定である.
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