前年度に確立したnmオーダーの金属薄膜(不透明)中の超高周波音速の測定手法をさらに拡張するため、本年度はZnOなどの透明薄膜中の音速測定手法について検討した。薄膜に反射用アルミ膜を付加し、RIΘA散乱配置の利用と光学系の改良により、数μm程度の膜厚をもつ透明高分子フィルム試料の音速測定に成功した。また音速の伝搬方向を入射光角度により調節し、膜の弾性的異方性の測定が可能となった。次に透明な試料として次世代横波用超音波センサとして期待されるZnO一方向面内配向膜をマグネトロンスパッタリングにより作成し、弾性的異方性を測定したところ、X線回折の測定結果と一致する大きな音速異方性が確認された。この音速異方性を単結晶薄膜の文献値と比較検討し、試料の結晶性について検討した。 種々のパラメータ下におけるブリュアン散乱測定として、数十μm程度の膜厚の結晶性高分子フィルム(ポリプロピレン、ポリエチレンなど)に応力を付加し、応力効果によるフィルムの異方性発現を音速測定により確認した。また、入射光の偏光を変えるとともに、後方散乱と90A散乱の二種類の散乱の同時測定手法を開発し、フィルムの光学的異方性の連続測定に成功した。その結果を試料の応力-ひずみ関係と比較検討し、応力付加によりフィルムの複屈折が生じるプロセスを明らかにした。 ブリュアン光散乱法の工学的応用の一例として、μmオーダーのエポキシ樹脂接着層の測定を行った。接着層の温度を外部ヒーターで制御し、接着層にせん断方向の応力を付加しながら音速を連続測定した。その結果、応力の効果は測定温度によって大きく変化した。測定温度が接着層樹脂のガラス転移温度より低い場合は、応力により樹脂に微小クラックが生じ、マクロな音速は低下した。ガラス転移温度より高い場合は、ゴム状態の樹脂がずり変形し、高分子鎖の配向が生じて音速が増大した。
|