本研究プロジェクトの目的は、非破壊・非接触計測による高分子膜・フィルムや金属・半導体薄膜の弾性測定手法の確立である。測定手法としてはブリユアン光散乱法を使用する。この手法は、材料中のフォノンの音波伝搬特性から極めて薄い試料の弾性的性質を知るものであり、3桁以上の精度で各種のパラメータ下における計測が可能である。しかし、これまでのブリユアン光散乱は物性計測に用いられ、非破壊評価法ではなかった。これは、弱い散乱光強度や、測定系の動作安定性などに問題点があるためである。 そこで本プロジェクトでは、主にμm厚の汎用高分子フィルムや次世代半導体基板であるSiC薄膜を測定対象に、以下の研究を行った。 まず、高分子フィルムの評価では、各方向に伝搬する音波速度から、弾性的性質を測定する手法を提案した。特に応力を負荷時のフィルムの超延伸過程の連続測定に成功し、また音速と屈折率の測定が可能であることを見出した。その結果、試料の弾性的異方性と光学的異方性の同時測定を実現した。また、μmオーダーの厚さの高分子接着層中の音速の非破壊・非接触測定に成功し、接着層にせん断応力が負荷された場合、接着層の破壊過程における音速変化が測定可能であることを示した。 ヘテロ構造のSiCのnm薄膜の非破壊・非接触評価では、分光器の動作の安定化と光学系の工夫により、薄膜のせん断弾性が膜状を伝搬する変形レイリー波の測定を実現した。測定結果より、SiCの結晶構造が、レイリー波速度に影響することを示し、nm厚さの薄膜でも、音速はバルクと同様な傾向を示すことを確認した。また、マグネトロンスパッタで作製された一方向面内配向ZnO薄膜の弾性異方性をブリユアン光散乱法で測定し、X線回折結果と一致して大きな弾性異方性が確認できた。 このように、これまで不可能であった薄膜・フイルムの非破壊・非接触弾性計測としてのブリユアン光散乱法を確立した。
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