研究概要 |
本年度は地震に関連するULF電磁場データのうち磁場データに含まれる信号の特徴の把握を行った。観測されるULF磁場データには(1)主に太陽活動に起因するグローバルな信号、(2)直流電車や工場の漏洩電流等などによる人工的な信号、(3)地中を伝搬してくる信号等が考えられる。地震に関連するULF帯の磁場変動は将来の震源域から直接観測点で受信したと考えられるので、(3)に含まれる。一般に地震に関連する信号は非常に微弱である。そのためには(1)や(2)の信号を除去せねばならない。そこで、今年度はULF磁場データに含まれる地殻活動に関連する電磁気現象の検出を目的とした信号処理法の開発を手がける中で,時系列データから地球超高層起源の電磁場変動を除去して,観測点付近の局所的なノイズの抽出を試みた。すなわち、(1)の除去を試みた。本研究では,インターステーション応答関数(Inter-Station transfer function;以下,ISTF;法を用いた。ISTFは複数の磁場観測点で測定された磁場データの成分間に成り立つ応答関数であり,観測点の電気伝導度分布に依存する。ISTFが時間に対して一定で,少なくとも1つの観測点でデータがノイズに汚染されていないことを仮定すると,その観測点と他の観測点との間のISTFによって,各観測点におけるノイズの汚染を受けない時系列データを合成することができる。各観測点のデータと合成データの差は,観測点周辺の局所的なノイズであるといえる。本研究では,時系列データをウェーブレット変換によって時間・周波数(スケール)領域に変換して,ISTFおよび残差の推定を全てウェーブレット領域において行った。解析では、房総半島の電磁場観測点で取得されたULF磁場データと気象庁地磁気観測所(柿岡)の磁場データをレファレンス・データとして利用した。その結果,周期100秒以上においては地球超高層起源の電磁場変動は除去された。しかし,ISTFの推定において,高S/N比のデータを時間,周波数の両領域で抽出するなどの改良点はまだ残されている。また、主成分解析による地震電磁気信号の検出も試み、適応フィルタやニューラルネットワークを用いた非線形適応フィルタによる異常信号変異の検出等も実施した。
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