研究概要 |
時間的にパラメータや構造が変動する時変システムや,入力部や出力部に非線形特性をもつダイナミカルシステムを入手可能なデータのみを用いてパラメータや構造を決定する問題,および上記のシステムを閉ループ内にもつ場合の閉ループ同定問題は,制御分野や信号処理・通信の分野にはよく遭遇する問題であり,有力なオンラインの同定法はないという現状である.上記の目的のもとで本年度では下記の研究実績が得られた. (1)ダイナミカルシステムの係数が時間的に変動する場合に,時変係数の生成モデルを時間多項式としこれを内部モデルに含む適応パラメータの誤差システムの閉ループシステムを安定化する時変システムの適応同定アルゴリズムを導出することができた.この適応アルゴリズムはパラメータの数は多項式の次数によらないので計算量が格段に低減化されている点に特徴がある.部分空間法により高速移動体の到来波方向を実時間で追跡する適応アルゴリズムの有効性をシミュレーションと電波暗室での追跡実験により有効性を明らかにした. (2)線形動的系の入出力部に非線形特性を含むブロック表現形の非線形システムの閉ループ同定に関して,オフライン形およびオンライン形の閉ループ同定方法を与えることができた.出力を入力よりも高速なオーバーサンプリングをすることにより,閉ループ同定を1入力多出力系の開ループ同定に変換して,閉ループ内の非線形系を同定する方法を与えた.この際に線形系の出力からその入力信号を復元するブランド同定を併用している. (3)高出力増幅器の非線形歪みを線形化補償するためにデータベース形のサポートベクトル回帰法(SVR)をオンライン形で実時間で計算するためのアルゴリズムを明らかにし,OFDM伝送方式の中で採用される増幅器の非線形歪み補償に適用しその有効性を明らかにした.RBFNをカーネルに選び拘束条件のもとでも逐次的に非線形予測器を更新できる点に大きな特徴をもつ.またこのアルゴリズムは熱間圧延の鉄鋼プロセスの板圧予測において従来のテーブル学習方式よりも予測誤差の標準偏差半減することにも成功した. (4)OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)伝送方式は周波数利用効率が高くマルチパス耐性に優れている点から,地上波ディジタルテレビ放送や次世代移動通信で採用される.本研究では,地上波ディジタルテレビ放送の中継局における回り込み波のキャンセリングを空間的には適応アレーで,時間的には適応FIR形フィルタにより実行するための計算効率が高くかつ大域的に収束性の保証を補償した適応等化方式を開発した.回り込みは中継局の入出力間に閉ループを構成するため,同定と同時に安定化を図る必要があり,種々の条件のもとでそのキャンセル性能を検討し有効性を明らかにできた. 今後の課題の一つとして,回り込み経路や適応制御など閉ループ系の安定性を保証するためのオンラインアルゴリズムの構成とその応用について展開する点が挙げられる.
|