本研究の目的は、時間的に変動するシステムや非線形動的要素を閉ループ内に含むシステムのパラメータをいかに同定していくかという閉ループ同定問題の幾つかの未解決問題に取り組み、解決策を見出し、有効な同定アルゴリズムを与えることであった。このような問題は、制御、通信、信号処理分野ではよく見られる課題であり、これまで有力な方法が知られていない。今年度で得られた研究成果は以下の通りである。 (1)主騒音を参照マイクロフォンで検出し、2次音源から制御音により目標点の騒音を能動的にキャンセルする制御方式では、2次経路の不確かさを同定により解決する方式がこれまで主流であり、可同定性が満たされないための問題点が長い間未解決であった、本研究では、2次経路を同定することなく経路変動に対して完全に適応的に対応できる能動騒音制御を実現する新しいオンライン適応アルゴリズムを開発することに成功した。 (2)軸ねじれ2慣性系の速度制御において、モータおよび負荷の時定数や粘性抵抗係数、軸ねじれ時定数、速度の2乗に比例する抵抗係数、クーロン摩擦など、非線形パラメータを含むこれらの物理パラメータを、閉ループ速度制御の状況下でも安定にオンラインで同定する方法を開発し、数値シミュレーションおよび同期モータを利用した制御実験により、その有効性を明らかにした。物理変数をフィードファワードモデルの中に生成する新しいアイデアにより、閉ループ同定を開ループ同定に近い形で実現しており、これらのパラメータの同時同定は初めて成功したものである。さらに、3慣性系に関しては、出力オーバサンプリングを利用した閉ループ同定を行い、公称系とその不確かさを同時に同定する手法を提案し、速度制御実験を通してその有効性を検証した。 (3)高出力増幅器の非線形歪みを増幅器の前におくプレディストータにより適応的にオンラインで補償するための3つの方法を開発し、これらの有効性を明らかにした。一つは、非線形増幅器をブロック志向型モデルで表現することにより、非線形パラメータ同定を行う反復的な手法である。二つ目は、高出力増幅器を、非線形部+線形部からなるモデルで表現をし、適応モデルマッチングの立場から適応プレディストータをオンラインで実現するというこれまでにはない制御アプローチによるもの、3番目は、逆に線形部+非線形部からなるモデルで記述することにより、適応同定の立場から時間域および周波数域の同定アルゴリズムを与え、直接プレディストータを構成する方法を与えた。いずれも数値シミュレーションによりこれらの有効性を検証した。 (4)OFDM伝送系における中継局の回り込み効果を適応的かつ安定にキャンセルする新しい手法を開発した従来の手法はキャンセリング能力を高めるためにステップサイズを大きくとるために不安定になりやすい問題点をもっているが、提案法では低域外の特性も同定しつつその上界を評価しながら適応キャンセリングを行うため高速でかつ安定性が保証される大きな特徴をもつものである。
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