無限領域における安定性理論は、流体現象を把握し理解する上で工学の分野に大きなインパクトを与えてきた。現在のところ、初期値問題の解から移流もしくは絶対不安定という概念が導入され、初期座標の影響を考慮した安定性理論が開発され、ジェットの安定性にも適用されている。一方で、工学で扱う問題の多くは流れ方向に境界を有する。自由落下水膜においては、ノズルで与えられた擾乱の増幅が、水膜のその後の運動を支配することになる。したがって、流れ場を空間局所的に均質であるとした無限領域の安定性理論は適用されない。 本研究では半無限領域における線形安定性についての一般論を構築することを目指した。一見、このような線形安定性理論は実用上の価値が非常に限られていると見なされるが、ジェットに限っても液体の微粒化メカニズムの理解・予測に線形安定性理論は大きな指針を与えてきた。したがって、半無限領域の安定性理論が開発されれば、流体が関わる多くの分野(理学、工学、技術)に広く影響を与えることは間違いがない。 本年度は予算の関係から、実験ではなくこの理論の構築を行なった。その結果、安定性に関わる時間発展の固有値は積分方程式から決定されること、その固有値の構造は無限領域の場合と大きく異なり、その解釈にさらなる研究を要することが判明した。 さらに、自由落下水膜においてはノズル出口のレイノルズ数が小さいことから、ストークス近似を用いて非一様流に対するOrr-Sommerfelds方程式の解析解を求めた。非一様流の安定性理論も現在のところ研究途上であり、この結果は、何らかの指針を与えると考えられる。
|