研究概要 |
最近の現地観測をベースとする研究によって,東京湾や大阪湾といった地形的な閉鎖性の高い内湾域においても,海流変動に伴う外洋水中層貫入現象や外洋底層から内湾への栄養塩供給過程の存在など,外洋水の動態が内湾の水質生態環境に重要な役割を果たしている可能性が明らかになってきている.このような外海から内湾への栄養塩供給が恒常的に行われているとすれば,これまでの陸域栄養塩供給を主体とした内湾物質収支の基本的な枠組み自体の再検討が必要となるため,外洋影響のさらなる実態把握,特に外海栄養塩流入フラックスの定量的評価が強く求められている.本研究では,沿岸域に与える外洋影響を直接評価するために,現地調査によって外海から沿岸域への栄養塩流入の実態を明らかにした上で,外洋モデルと地域水環境モデルを結びつける多重スケールモデルを構築し,外海から沿岸への栄養塩フラックスの定量的な評価法の確立を目指す.今年度は,外洋域から沿岸域への栄養塩流入の実態を把握するために現地計測実験を鹿島灘海域で実施した.その結果から,鹿島灘沿岸域における栄養塩・クロロフィルa量の季節変化の基本特性が明らかとなり,季節変化よりも短いスケールの変動現象として黒潮流路の急激な接岸に伴って外洋域下層から高濃度の栄養塩が沿岸域に供給され,それが原因となって沿岸域に植物プランクトンのブルーミングが発生することを見出した.これまで,東北・常磐海域では親潮による栄養塩供給が海域の生産性を支える上で重要であると認識されてきたが,今回の計測結果は親潮のみならず,黒潮によっても栄養塩が輸送されることを示しており,黒潮親潮混合域にあたる同海域では,黒潮及び親潮の両者の影響によって沿岸域に高い生産性が保たれていることが明らかとなった.
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