研究概要 |
本年度も昨年度に引続き,吉野川河口干潟を中心に底生動物を対象とした干潟生態系の動態調査を実施するとともに,昨年までに構築した底生動物に対する生態系-物理環境応答モデルを用いて吉野川下流域で複数の環境インパクトを想定した環境影響評価の試行を実施した.この試行を通して,汽水域生態系を対象とした環境影響評価をする上での課題について検討した.現地観測の結果,河口干潟の底質は平常時の潮汐によって時間的,空間的に大きく変動していることが明らかになった.干潟の干出直前と冠水直後に摩擦速度が大きくなることや平均水面付近の底質の移動量が大きいことがわかった. 汽水域の希少生物の生息地適性評価としてHSIモデルを用いる方法を提案した.シオマネキを対象種とし,河床地形が変化したケース,平均海水面が変化したケースについて,HSIモデルを適用して,シオマネキの生息可能領域がどのように変化するかについて検討した.吉野川河口地形の短期将来予測結果を用いた場合にはシオマネキで10%程度,吉野川河口部で生息地が減少する可能性が高いことが示された.一方,平均海面が5cm上昇するケースでは生息地が数%増加することが示された.これらの結果から,汽水域生態系の環境影響評価を行う上で,長期的かつ広域的な視点で行うことが重要であることが明らかになった. 今後,汽水域生態系に重要な影響を及ぼすと考えられる潮汐の長期的変化についても検討した.日本沿岸の平均海面は1985年以降,顕著な上昇を示しているほか,冬季の海水温の上昇の影響により,長周期潮の1つであるSa潮の振幅が日本沿岸で減少していることが明らかになった.
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