多地域一般均衡モデルの比較静学分析を行うため、本年度は以下の2点について重点的に研究を行った。 1)2地域2財2要素の単純化した国際交易モデルを基礎とし、地域間交易の基本モデルを作成し、輸送が与える構造的な変化を解析的に捉える試みを行った。 2)SCGEモデルで利用する関数をヨハンソンの提案するパーセンテージ変化に分解する試みを行った。 1)ついては、国際貿易理論として知られるヘクシャー・オリーンモデルに輸送部門を加味して地域間交易の基本モデルとした。この場合、輸送部門の導入には、サムエルソン型の氷解モデルと輸送分を独立した部門として組み込む、2つのアプローチがある。国際貿易モデルに基礎を置くことによって、輸送費用の変化に伴う地域経済の構造変化を従来の理論を用いて解釈可能になる。その結果、氷解モデルの場合には、関税を含む場合とほぼ同様の解釈が可能であり、国際貿易理論で得られている諸定理がそのまま適用できる。しかし、氷解モデルは輸送部門についてパラメートとして扱っているに過ぎず、輸送部門それ自身の構造変化を分析できない。そのため、輸送部門を分離した形のモデルが必要になる。この場合には、国際貿易理論の定理はすべてが成立するわけではなく、特に輸送費用の変化に伴う地域の労働賃金が不定になるとの結論を得た。このことは、一般的なSCGEモデルでの感度分析はシミュレーションに依らざるを得ないという結論を導くため、再考を要する課題として残された。 2)について多地域他部門多要素というSCGEモデルの一般モデルを想定した研究である。ヨハンソンのパーセンテージ変化モデルを用いるとアウトプットのパーセンテージ変化が、関数を構成するインプットのパーセンテージ変化の和として表現できるため感度分析には有効である。
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