研究成果は大きく次の3つに整理できる。 1)CGEモデルと感度分析:感度分析に都合の良い形のCGEモデルとしてMatheisenのモデルを取り上げ、さらに地域間交易係数を含む形に拡張した。このようなSCGEモデルは数学的には相補性問題として定式化できる。相補性問題の性質を利用して、解が一意に定まらないことを証明した。この性質はパラメータを推定する場合に要請される重要なものである。何故ならば、解が一意に決定されるとデータに合わすためのキャリブレーションが必要なくなるからである。次に、簡単な2部門モデルを取り上げ、感度分析を解析的に行い、解析的な方法は煩雑な手順が必要であることを明らかにした。そして、Johansenの線形近似手法を用いた均衡条件式を差分あるいは%変化で表示する方法を示した。この方法は、政策変数あるいは外生変数の変化分の関数として内生変数を定義できるため、有効な感度分析となりうる。また、SCGEモデルについても輸送効果、最終需要効果等の構造に分解できることを示した。 2)混合相補性問題による解法の特性:本研究で対象とするSCGEモデルは相補性問題となるため、その解法について検討した。特に、メリット関数を用いる手法の収束可能性について吟味した。解の大域的収束性については理論的に保証はできないものの局所的収束性は保証できる。この場合、ヤコビアン行列情報を必要とするが、これは基本的にはJohansenの線形近似手法と同じであり、従って、解を求める途中で感度分析に必要な情報を得ることができる。 3)感度分析の数値計算例:色々なケースを想定した数値計算例と感度分析を実行した。ただし、実際データを対象にした分析にまでには至ってない。これはヤコビ行列の次元が膨大になるためであり、Excelを基本に作成したプログラムでは扱えない。Fortranに変換する等の工夫が必要であり、課題として残された。
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