研究概要 |
[目的]南極マクマードドライバレイ地域のバンダ湖上層水より分離されたCandida sp.を用い、低温好気的条件下で低温域での溶存有機炭素(TOC)およびアンモニア性窒素(NH_4-N)除去について研究を行った。開放系での培養や排水処理に役立てることを目的として、非滅菌状態における、低pHないし塩素のTOCと硝酸性窒素除去に及ぼす影響について検討を行った。一方、低温で生育できる条件を明らかにするために脂肪酸組成、耐凍性およびトレハロースの有無について測定を行った。 [方法]本研究で使用した好冷性酵母Candida sp.は、10〜15℃付近に至適生育温度があり、硝酸塩の資化性(+)ビタミン要求性(-)、NaCl耐性(0〜5%)(+)、醗酵性(lactoseを除く)(+)、などが特徴の酵母である。Candida sp.の保存菌株をYM培地50mLに1白金耳加え5日間前培養した後、NH_4-N濃度130mg/L、TOC約4000mg/Lの簡易合成培地100mL(CN比約30)に菌体を約0.15g(乾燥重量)加え、培養温度0または5℃で通気培養した。この培養液の、pH,塩素(Cl)濃度等の条件を変え、菌体量、培養液中のTOC、NH_4-Nを経時的に測定し、酵母の生育とTOC、NH_4-Nの除去を調べた。また、培養温度を変えて培養した菌体の脂肪酸組成を測定した。Yeast Nitrogen Base(Difco)グルコース培地(pH6.5)で培養した菌体中のトレハロース含量を測定した。YM培地で培養した菌体を集菌洗浄後蒸留水に懸濁し、-20℃で保存したときの生菌数(コロニー形成数)を経時的に測定した。 [結果]0℃、5℃での培養ともにCl濃度5mg/Lで、4日で酵母は約4倍に増殖し、TOC、NH_4-Nは約60%以上除去されたCl濃度20mg/L以上では、酵母は増殖しなかった。pH3の培地では他の培地に比べて若干菌体濃度の増え方が遅いものの、pH4〜8の培地でのTOC除去率、NH_4-N除去率とほとんど差がなかった非滅菌、滅菌ともに、ほぼ同じTOC除去率、NH_4-N除去率であった。菌体の脂肪酸組成は、培養温度(0℃〜20℃)が低くなるほどC16:0とC18:1の割合が少なく、C18:3(m.p.-11℃)は多くなり、低温での膜の流動性の維持を示唆するものと考えられた。本酵母の蒸留水懸濁物を-20℃で保存したところ、生菌数は3日後で10%に減少し、7日後と30日後も10%のまま変化しなかった。耐凍性の一つの要因とされるトレハロースは本酵母には存在しなかった。
|