本研究では、ひび割れが早期に入ることを意図した低引張強度高靭性コンクリートをエネルギー吸収部材としての効果を得るための材料設計と、通常のRC部材と併用した場合に意図する効果を発揮するための部材設計方法の提案を試みることを目標としており、必要とする引張強度と引張靭性の得られるコンクリート調合の材料学的研究およびその経験とデータを応用した袖壁付き柱試験体を製作し、目的とするエネルギー吸収特性が得られるかどうかについての力学特性の評価を主軸に研究を遂行した。 まず材料学的研究については、水セメント比、粉体・繊維の混入率、骨材の粒径別の混合比の変化や、軽量骨材の事前吸水の割合を変化させた供試体により行った。その結果、事前吸水が無い場合には長期強度の安定が得られないこと、骨材の細粒の割合が大きいと強度は高くなるが、靭性が下がってしまうことなどが判明し、水セメント比55%、骨材粒径比1:3:6(大粒:中粒:細粒)、繊維混入率1.8%のとした場合に最もエネルギー吸収能力の高いコンクリートとなった。 また、中子筋を用いて十分にせん断補強した普通コンクリートの柱を設計し、それに軽量コンクリートによる袖壁を取り付けた試験体を製作し、袖壁コンクリートを変化させた4体の試験を行った。その結果、最大のエネルギー吸収性能は材料学的研究での結果と一致していた。また、柱の部材角が大きくなっても、等価粘性減衰定数はあまり変化せず、良好なエネルギー吸収特性が得られたと考えられる。さらに、柱と壁の一体性を確保するためにシアキーを設け、袖壁端部補強筋を配置し、さらに壁筋の付着・定着を改善し、袖壁にせん断力が確実に伝達するようにした試験体では、柱に殆ど損傷が起こらないうちに袖壁に多数のひび割れが発生し、良好なエネルギー吸収を示す袖壁付柱を設計することができた。柱主筋降伏後も耐力低下することなく、意図するような復元力特性と破壊モードが得られた。この復元力特性と破壊モードを保証する設計条件について検討し、復元力特性を簡便に表現できるように、独立柱の復元力特性と袖壁板の復元力特性を重ねあわせる方法を提案した。
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