空間での音声伝達明瞭度を表す物理的指標として一般的に用いられているSTIは、必ずしも聴感と対応しないことが指摘されている。これらの原因として、STIが単一のマイクロフォンで得られるモノラルの値であるのに較べ、実際の聴感は両耳によるバイノーラルな感覚であることが考えられた。これらの確認のため、聴感実験を主として検討を行った。まず、残響時間の異なる各種建築空間を7つ選び、音響測定によりそれら空間の物理的な音響指標を収集した。同時に、単一マイクロフォンとダミーヘッドにより全く同条件でアナウンス録音を行い、これを用いて、モノラルに対応するdiotic受聴とバイノーラルのdichotic受聴の差に関する聴感実験を行った。その結果、残響時間の短い空間ではdiotic受聴とdichotic受聴に有意な差がみられ、dichotic受聴の方が聞き取りやすいという結果が得られた。聴取条件の悪くなる残響時間の長い空間では、両者の差は見られなくなった。更に、「聞き取りにくさ」の主観評価特性は、残響時間を基本のパラメータとし、これに直接音と残響音のエネルギー比を考慮した指標(C値、D値など)を組み合わせて評価できる可能性があることが明らかとなった。また、STIだけではこれらの特性を表現するには不十分であることも明らかとなった。今後は、これらの新たな物理指標の検討と、音場条件や聴取条件の変化に応じた、より詳細な聴感実験検討を行う予定である。
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