本研究では、SPMの文化財への影響を検討し、総合的に博物館内SPM基準値策定のための評価法の確立を目指した。 1)文化財施設の浮遊粉塵の測定法についての検討 空調のある文化財施設の場合、中性能より能力の高いフィルターがダクト内に組み込まれているためSPM汚染量の少ない事例が多く、一般的には粉塵計では計測できない。短時間で汚染量を判断するためには他の手法による必要があり、本研究では粘着面に空気を直接吹きかけてSPMを採取し、光学顕微鏡を用いて粉塵を直接、目視観察して構成物組成を判断する方法で、文化財施設内の季節変化を検討した。その結果、空調のある施設でも粗フィルターのみで外気処理を行っている施設では、粉塵の構成物組成は、外気の影響を受けて季節変動をすること、空気のよどみと相関すること、また実際の展示室内では、観客などの移動体の影響が大きく、粉塵濃度予測が困難であることが分かった。 2)付着粉塵と室内浮遊粉塵量との相関について 一般的に、付着量また付着粉塵粒径は、高さ方向に対して負の相関を持つが、結露地点や高湿度となっている面では付着量が増加し、また、活性の高い状態でカビ(胞子)が存在していることがわかった。 3)壁面材の相違による付着量の増減について 壁面材の種類として、付着しやすいと予想される木材、クロス貼り、また付着しにくいと考えられるタイル壁、ポリエチレンテレフタレート材を垂直面および水平面に設置し、付着量を光学顕微鏡で観察した。またコンタクトプレートを圧着して移し替え、培養後のカビ・酵母等コロニー数を計数した。垂直面には1ヶ月程度の期間では、付着量・種類ともに材質間に有意差が認められなかった。水平面設置では、付着しにくい材質の方がコンタクトプレートへの移し替えがより定量的で、サンプリング手法として応用可能性があることがわかった。 4)堆積粉塵の粒径分布と付着菌量の関係 空調のない施設では一定の相関があることがわかった。また付着粉塵量と付着菌量、堆積粉塵量と生育菌数には相関があることがわかった。浮遊粉塵と付着粉塵の相関については、表面仕上げの材料と形状、特に凹凸と関係があることがわかった。文化財施設内のSPMの問題については、その汚染レベルが非常に低く、測定手法と評価については、より一層の検討が必要であることが、研究を通して明らかとなった。
|