入居者、職員、敷地が同一のまま、六床室を主体とする従来型の特別養護老人ホームから、全室個室のユニットケアへ建替えられた特別養護老人ホームJ苑の建替え事例を取り上げ、全室個室ユニットケアを導入した場合、入居者のQOLがどのように変化するのか、また職員の介護負荷が増加するのか、時系列的な非参与行動観察調査を行った。 その結果、1)個室化により個人的な領域が確保されることにより、低度のADLの高齢者であっても個人的領域形成が進み、持ち物が増加すること、2)全室個室としても入居者のリビング滞在率が向上することで、個室化が直接引きこもりに結びつかないこと、3)トイレが分散配置された結果、排泄の自立度が向上するケースが見られるなど、ADLの改善に寄与すること、4)寝たきりに近い高齢者であっても、離床して食事を摂ることにより、食事摂取量が大幅に改善するとともに、経口摂取していたケースが自力摂取に変わるなど、ADLの改善をもたらすこと、5)職員の介護時における身体活動量を時系列的に調べた結果、ユニット化により一時的に介護職員の身体活動量は大幅に増加するが、建て替え後5ヶ月で建て替え前に近い水準に近づくこと、6)職員配置をユニットに固定し、職員体制もユニット化すると、むしろユニット化する前の状態よりも職員の身体活動量は減少することを示す結果を得た。一方で、7)従来型のケアから個室化・ユニットケアヘの転換は、スタッフの精神的な疲れに二極化をもたらすことも示唆され、これまで以上にスタッフの資質が問われることも、この調査から明らかになった。
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