本研究はニューヨークにおけるサポーティブ住宅の実態とそれへの政策支援に関して分析したものである。サポーティブ住宅とは、精神障害などの特別のニーズをもつホームレスを対象として、SRO (Single Room Occupancy)と呼ばれる「一室占有」建築の改造によって供給され、そこに社会サービスを組み合わせたものを指す。サポーティブ住宅は非営利組織によって所有・運営され、公共セクターからの補助を受けている。全米のなかでニューヨークはサポーティブ住宅の供給量が最も多く、それへの公的支援が先駆的に実施されている都市である。 日本の大都市では、ホームレスの増加、非営利活動法人の活性化、それへの公的支援の開始、などの状況が生まれている。これに対してニューヨークにおけるサポーティブ住宅の経験は貴重な示唆を提供するものとみられる。 具体的には、第1に、ニューヨークの住宅危機について分析した。「世界都市」として成長し続けたニューヨークでは、アフォーダブル住宅の欠乏、それにともなうホームレスの増加という深刻な住宅危機が発生し、サポーティブ住宅供給の必要性が増した。 第2に、サポーティブ住宅の主要な供給主体である非営利組織の活動実態を明らかにした。CDC (Community Development Corporation)を中心とする非営利セクターはアフォーダブル住宅の供給主体として目覚ましい発展を遂げてきた。しかし、住宅事業を取り巻く環境は新自由主義・新保守主義の台頭のもとで非営利組織に多面的なストレスを与えている。 第3に、SRO住宅の歴史的な変遷、そこからサポーティブ住宅が生まれる過程について考察した。ホームレスが増加するなかで、SRO住宅をホームレスのための住宅資源として位置づける見方が生じ、そこから非営利組織と政府セクターの連携によってサポーティブ住宅の供給が始動したことを明らかにした。
|