本研究は近代以前の木造建築を対象として、構法原理の観点から我が国の伝統的な小屋組の多様性と選択性に関して発達史的な解釈を与えることを目的としている。はじめに、従来の研究における小屋組の分類概念をビルディングエレメントの観点から批判し、海外事例の分類法も参考とし、日本の伝統木造では存在しないとされている形式も含めて、包括的な視座から小屋組の一般的な分類を示し、国内の様々なビルディングタイプの対応を概観した。そのうえで、最も多様な小屋組形態が現れている中近世の農家を対象として、以下のような分析を行った。 まず、建築構法の視座から棟束組、母屋組、扠首組を基底とした従来よりもきめ細かい小屋組の分類を試み、663棟の民家に分類を適用し、その地域性を横断的かつ精緻な様相としてとらえ直した。 次に、小屋組の規模によってどのような架構方式を採択したかという点から分析を進めた結果、規模の大きな小屋組ほど多数の支持点で支えられる傾向が見られるものの、扠首組の場合には、両端支持とするか、中央に束を立てた3点支持点とするかという構法選択が、規模に依存するものでないことを示した。 最後に、束立て組と扠首組の過渡的形式に着目し、過渡的形式を示す事例から小屋組の発達過程を考察した。その結果、東日本においては、純粋な棟束組が皆無で、母屋組を原点として扠首組への移行過程が現れており、西日本では、棟束組と扠首組の構法が関わりながら過渡的形式が漸次出現していることを示した。
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