研究概要 |
人工なぎさ造成を仮定している政策対象地の東京湾から約1200km離れた札幌市および北九州市の住民を対象としたアンケート調査を実施し,それぞれの都市で175票ずつの有効回答を得ることができた。CVMによって,東京湾での人工なぎさ造成のために,毎年,一世帯あたりが年間に支出してもよいとする金額である支払意志額の推定を行った結果,札幌市で約2000円,北九州市で約1500円というほぼ同等の金額が得られた。このことから,都市に自然環境を再生することを目的とした公共事業は,当該都市に居住する住民だけでなく,1000km以上も遠方に住む人々にとっても,価値ある政策であることが明らかとなった。 また,人工なぎさは,自然の干潟に比べて,どの程度,環境価値に差異があると認識しているのかを把握するため,東京湾の三番瀬および伊勢湾の藤前干潟という2つの自然の干潟と,東京湾および伊勢湾に人工なぎさを造成することを仮定した場合という,計4つの政策に対して,東京都江戸川区民,名古屋市民,仙台市民の3者へのアンケート調査を実施した。CVMによって,それぞれの支払意志額を求め,得られた金額や評価理由などを相互に比較した結果,次のような知見を得ることができた。(1)人工なぎさ造成に対する市民の価値認識は,自然の干潟の価値に比べて,政策対象海域からの距離が離れるに従って減衰する傾向が顕著である。(2)自然の干潟の保全だけでなく,人工なぎさに対しても,生物生息環境を存続させ次世代へ継承するという遺産価値を重視して賛意を表明している。
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