本年度は9月1日〜18日に「アルノ川流域のカセンティーノ地域」と「シエヴェ川流域のムジェッロ地域」を調査し、11〜14世紀の都市組織と地域組織の形成過程を明らかにした。両地域とも中世後期の小都市(自治都市)が、次第にフィレンツェのような大都市の領域支配下に置かれる過程で、市壁、聖堂、市庁舎、貴族の邸館などの形態と空間が変容することを各小都市の史料と実地調査により、具体的に把握することができた。研究によって得られた知見は以下の通りである。 1.トスカーナ州北部のカセンティーノ地域は、エミリア・ロマーニャ州に接するため、アペニン山脈の北の文化圏との街道を介した流通が、小都市の交易と深く関わっていること。 2.川の上流域に行くほど、地理的に山で両側を囲まれる環境となるため、中世後期の地域組織の形成過程における、小都市間の政治的、軍事的ネットワークは親密となり、カステッロ(城砦都市)の居住形態と都市形態に大きな影響を及ぼす。 3.フィレンツェ周辺には中世後期に計画された新都市(テッラ・ヌオヴァ)が複数存在するが、ムジェッロ地域のスカルペリアは、エミリア・ロマーニャ州からの軍事介入に対しての防衛拠点としてフィレンツェ共和国が建設したもので、地域形成に貢献する人工的手段として意義があった。 4.各小都市でしか入手できない貴重な文献・史料を読み解くことで明らかになった事は多い。
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