掘立棟持柱構造の歴史的な展開過程を実証的に考察する本研究が平成13年度になした作業を以下の三項に即して報告する。 (1)資料の収集と分析 既刊の調査報告書等を通じて建築遺構を猟渉し、網羅的にデータを整理する作業を行い、棟持柱をもつ遺構図面を多数採取した。その結果、純粋な棟持柱構造は少なく、むしろ棟持柱構造と軸部小屋組構造を併せ持つ事例が多数を占める点を明らかにした。また、棟持柱の上部を改修した興味深い事例を数点把握した。これらは掘立棟持柱構造から軸部小屋組構造へ日本の民家が徐々に移行したことを物語る。 (2)構造および構法の分析 本年度の分析にて捕捉した最大の成果は、ウダツと呼ばれてきた建築用語が棟持柱構造を祖型として派生した建築部位を一貫して指してきたという点である。この成果により、本研究が提唱する棟持柱祖型論の妥当性を、構造および構法ばかりでなく建築用語の点から裏打ちした。 (3)比較研究のための海外事例調査 平成13年12月にドイツ、スイス、オーストリアを対象に事例調査を行った。最大の成果は、南ドイツのボーデン湖畔のウンターウールディング村の杭上家屋の屋外野外博物館であった。今回の調査で、掘立棟持柱構造が、ヨーロッパにも見られ、その時期が先史から近世までに及ぶ、という観点を確実にした。このことは、本研究が専ら扱おうとしている中世後期から近世に至る時代を越えて、掘立棟持柱構造が広くユーラシア大陸の木造建築の支配的な一形式であった点を示唆する。また、棟持柱構造を捉えた先史の岩絵を多数知った。さらに、棟持柱構造に関する貴重な文献もこの調査中に得ることができた。 以上の三項を通じて、掘立棟持柱祖型論の通時的な展望が先史から現代までに及ぶという観点を捕捉した。
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