平成13年度から平成15年度にわたって、棟持柱構造をもつ事例を幅広く猟渉してきた。報告書をまとめるにあたり、収集した大量のデータの資料の整理に時間が掛かった。まだ、棟持柱構造をもつフィールドを調査し残していた。そのため、平成15年度科学研究費補助金研究経過報告書にて述べたように、研究成果の公表を1年おくらせることとした。平成16年度に長野県飯山市のタテノボセ造を実測調査・ヒアリング調査し、これを今回の研究成果に含めた。また、この事例を整理する上で、棟持柱構造に関する既往文献のレビューが要求されるので、本報告書では、参考文献を入念に猟書するとともに、必要に応じて各々の参考文献にコメントを記した。 研究を通じて、文献資料、絵画資料、建築遺構、考古学的発掘資料から、数々の類例を調査の上、蒐集してきた。まず、日本で資料を収集する上で、全国の民家修理報告書や民家調査報告書を丹念に調べ上げた。その結果、予想を遥かに超えて、該当する類例を見つけるに至ったが、研究成果報告書の通り、実測図の清書ならびにヒアリングの文字おこしを完了した。とりわけ、調査にあたって、重きをおいたのは長野県と山梨県であり、有意義なデータを収集し得たとともに、旧来の学説をくつがえす論点を多数得ることができた。以上のように幅広い資料調査をおこなった結果、棟持柱構造をもつ構造物を主に文献資料や絵画資料や建築遺構から数多く集めるに至った。 研究成果を踏まえて今後の展望を述べたい。まず、棟持柱構造をもつ構造物が建築の歴史のなかでどの程度、祖型として成り立ち得るかといった観点が世界史的視野からみて重要であろう。棟持柱をもつ構造物は石器時代の石絵rock artにはすでにその姿を現していた。また、ヨーロッパ・アルプス周辺地域では、17世紀まで棟持柱をもつ民家が建てられていた。アジアでは、ネパールやベトナムや韓国や台湾などで棟持柱をもつ建造物が確認された。また、日本では、小規模な小屋では現代でも掘立棟持柱構造は確認された。このように幅広い地域のなかで、すこぶる長い年月にわたって確認される棟持柱構造の展開過程を、様々な模式図を用いて通時的に考察するとともに、建築形態として類型化を進めたが、つぎの段階として、海外の事例を収集することで、棟持柱構造のユーラシア的布置を解明していくことが必要である。
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