本研究は現在のオランダ王国北西部地域の都市を中心に17世紀に集中的な建設を見た「ホフィエ(Hofje)」と呼ばれる都市型福祉施設の空間構成に関する弁別性の理解を目的とした建築意匠論研究である。同対象は、低地オランダ地域の後発的な旧教教化プロセスに伴い、中世後期から孤児養育院・老人養護院等の福祉目的の都市施設として継続的に発展したが、とりわけ経済的繁栄によって飛躍的に都市規模が拡大した17世紀前半に集中的な建設を見た。本研究は同時期のホフィエが海面下の人為的定住環境の構造化過程において、治水を一義にした独自の社会形態的発展と固有の物的環境造形を創出した低地オランダ地域の高密度な都市環境における居住概念とその物的構成の弁別性を理解する上で、原型的な一建築類型と捉え、平成13年度を中心に今日オランダ王国に現存する200余の事例の現地踏査を実施し、立地・規模・配置等の外的成立条件を包括的に把握した。次に14年度を中心に内包型中庭空間と外部接続領域からなるホフィエ特有の外部空間構成について、アクセス路と住棟構成の存在形態に関する類型論的考察を行い、現存事例の平面構成的な特徴に関する比較考察を行った。最後に13、14年度の調査分析を基にした補完的考察として、ホフィエを都市的ヴォイド空間と捉え、都市空間の構成形式の観点から知覚形態的分析を15年度に行った。以上の考察によって低地オランダ地域の高密度な都市環境下に建設されたホフィエの空間構成の成立に関する外在的な条件と、独自な空間構成の内在的な組織原理の一端を検証し、同対象の都市居住施設としての特徴を理解するとともに、従来、西洋のアレバニゼーションプロセスにおいて傍系評価にとどまり、十分な検証が行われていない産業革命期以前のオランダ王国の都市型住居の建築意匠論的考察に関する新たな知見と評価視点に関する研究成果を獲得した。
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