本年度は、まず、主として京都市歴史資料館に所蔵されている近世中期以降から近代(大正期頃)までの各町の史料、すなわち「沽券帳」「家屋敷売券帳」「譲り状帳」など、近代の史料としては「地所間数取調調書」「地券帳」「地券願書」「家券帳」などについて複写した。具体的には、上京区:伊勢殿構町、妙蓮寺前町など19ヶ町、中京区:亀屋町、蛸薬師町など25ヶ町、下京区:太子山町、足袋屋町など16ヶ町について史料を網羅的に収集した。 各町における多量の諸史料を翻刻した上で、町ごとに年代順に史料を配列し、これらから取引価格、所持者の移動、宅地形状、家屋配置、などを読み取りデータベースの作成を行っている。 この作業は史料点数が膨大に付き現在も継続中であり、データ入力に平行して、数町を取り上げ、試験的に、町人の宅地所持の年限とその移動を年表形式に整理を行っている。 その結果、町内の土地取引には町中が常に介在し、町人同士の直接の取引は強い規制と監視のもとにおかれていたことが窺われた。すなわち、町中は家屋敷地の売買に大きく介入し、またその介入によって町内の居住者をコントロールしていたようである。町中は町触れ等で家屋敷売買に関して規制をもうけていただけでなく、実際に家屋敷を買い得することで、町内の居住者の規制を通じ、「町」というものの維持につとめていたと考えられた。その結果、居住者の出入りは少なく、住人(家持人)の居住歴は総じて長く、安定した町居住の維持が図られていたことが推察された。
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