ルネサンス期には古典復興を自らの時代形成のアイデンティティとして数多く建物が建設され、それらの建築のパトロンに建築家がその建築の設計意図を示すために、当然のごとく何らかの媒体が必要であった。その媒体としての建築図面の中で古代受容がいかに表現されているのかを解明することが本研究の目的であり、ルネサンス文化総体を知るうえで極めて重要である。 平成13年度の研究成果は次の通りである。 1.ロンドンのジョン・ソーン美術館に所蔵されているいわゆる「北イタリアのアルバム」と称される透視図法で描かれた都市景観図を含む一連の図面集と、パリのルーヴル美術館のロスチャイルド・コレクションの中に現在ではバラされた牛皮紙の図面(inv.nos.841DR-860DRV)によるアルバムの一部にある都市景観図が何の目的で誰によって描かれたのかの解明を試みた。作者推定には未だ議論の余地はあるものの、古代の舞台装置の復元の目的がそこに見え隠れすることは明らかになってきた。 2.現存するイタリア・ルネサンス期の建築に関する素描・図面には、<空想建築>fantasy architectureと分類できる図面群が存在する。<空想建築>とは、新しい建物の設計案としての図面ではなく、また古代の建築を正確に再現した図面でもない、古代ローマの遺構から見出した様々な用途の建築部分を合体させた架空の建物群を含むもので、いわゆる設計図や復原図とは本質的に異なったものであった。<空想建築>が描かれた、ブオナッコルソ・ギベルティの『雑録集』とサンタレッリ手稿の図面群とを考察することによって、15世紀後半におけるその流行の意味と起源を探った。それらはロンバルディア地方とヴェネト地方の一派が制作したものを起源とし、古代に対する憧憬をもって描かれたもので、コレクションの対象にもなった。1と2で調査対象となった図面は、古代に対する追慕の念をもって描かれた図面に分類できる、古代受容名パターンを検討できた。
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