1.本研究は、現代の居住環境を人間的な住まう環境として形成するとき、風景の観点から如何に記述しうるかが主題であり、建築的環境構成の根拠を理論的に明らかにすることである。本研究はしたがって実践的に地域計画の策定と並行するのであり、その結果、考察と計画が一となる実践的な事象性が、取りあえずの最終的結論であることが示された。 2.事象性は現実の生活環境の具体性において露わになる。山の辺集落の場合にしたがって、そこでの生活、なかんずく日常生活と祭祀の非日常生活の関連を具体的に調査しその意味を解釈することが今後の課題となろう。 3.本研究によって、山の辺集落が伏蔵する諸意味の大筋の関連を、理論的に把捉し得たことは、重要な成果である。そのために京都における洛中と洛外、洛外や山に活動する社会外的民衆たちの歴史過程を参照し、能芸の空間構造、浄土教、神道における原初的、宗教的超越的世界を垣間見る必要もあった。 4.生駒山系の西斜面の山の辺集落の生活環境が、それらを相互に繋ぐ東高野街道と高野聖などの、これまた社会外の民人の活動と共に、日本における生活環境の一範型として見ることができた。 5.これらの知見から、都市の周辺部に起こり、いまなお起こりつつあるアーバン・スプロール現象を秩序付け、生き生きとした居住環境の形成を促す手法が可能性であると思われるに至った。具体的な河内地方の都市的ガヴァナンスの手法を示唆しうるものであろう。この意味で、本研究は実践的である。 6.日本古来のものの感じ方、なかんずく禅的思惟と建築的実践の今日的価値が、本研究の過程で再認識されるようになった。宗教性を欠き、現在という生きる時を持続させる、あの存在忘却をする現代的危機が指摘される。 本研究は、本来的な意味でも、実際的な意味でも途上的である。研究の過程で明らかになった道筋を忘れず、今後の展開をはかりたいと思う。その成果は、国の内外においてすでに部分的に公表しているが、学術論文として国の内外の学会や研究者の批判を受け、共同討議をする予定をしている。
|