本研究の目的は超伝導体を強磁性体で挟んだサンドイッチ構造の薄膜を作製し、超伝導層の両側の強磁性層の磁化を、平行、反平行にした時に生じる超伝導臨界温度(Tc)の違いを利用してそれをスイッチとして用いようと言うものである。前年度までは、超伝導体層のTcが周囲の環境によりどう変化するかの基礎研究を重点的に行ってきた。その結果、(1)超伝導体(S)/強磁性体(F)においてはS/常磁性体(N)あるいはS/S等の多層膜と異なって、Tcが異常な振る舞いをすることが分かった。即ち具体的には、F層の厚さの関数としてTcはある条件の下では振動現象を示し、またある条件の下ではreentrant的な振る舞いを示すことが分かってきた。また、(2)それに関連して、超伝導体の持つ他の基本的性質、Hc2、Jc等もS/F特有の性質を示すことが分かった。これらの結果を踏まえて今年度は当初の目的である超伝導-強磁性体結合膜の作製を行いTcの変化を調べた。作製に当たって、超伝導体層の両側の磁性体層において平行、反平行状態を実現するために強磁性体としては保磁力の小さい物質を選ぶ必要がある。また片側の強磁性層の磁化方向を低磁場で動きにくくするために反強磁性層で固定する必要がある。従って我々は超伝導体(S)としてNbを、また強磁性体(F)としては保磁力の小さい(0.1Oe程度の大きさ)FeNiCoパーマロイを選んだ。さらに反強磁性体(A)としてFeMnを選んだ。そしてF/S/F/Aなる4層膜をそれぞれの層厚を色々変えて作製しまず磁化の振る舞いを次にTcの振る舞いを調べた。その結果磁化測定の結果により殆どの試料でF層の平行、反平行の出現を確認した。またS層厚の大きな試料についてはTcの違いは確認できなかったがS層厚の小さい試料についてはTcのわずかな違いが認められた。
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