超伝導-強磁性接合によるスピンスイッチング素子はAF/F/S/Fの4層構造膜をを取り、ある条件下では両強磁性層のスピンが互いに反平行状態を取った時に平行状態を取った時よりも高いTcを持つ可能性がある事が理論的に示唆されている。即ち、ある条件のもとではフリーF層の磁化の反転に伴いS層は常伝導状態から超伝導状態へと転移し、従ってその場合磁気抵抗は有限の値から零へと変化し実際上非常に小さい磁場変化に対して高いS/N比を持った素子が実現される事になる。この様な予測の元に基礎的研究も含めて以下のような研究を行った。行った系は、(1)超伝導体/常伝導体(常磁性体、非磁性体、他の超伝導体等)積層膜、(2)超伝導体/強磁性体積層膜、(3)強磁性体/超伝導体/強磁性体/反強磁性体からなる4層膜の系である。その結果以下のような結果を得る事が出来た。(1)については常伝導体として非磁性体や超伝導体を選んだときのTc、Hc2の挙動を調べた。結果は近接効果の理論やPauli常磁性の効果でかなり説明が出来る事が分かった。(2)に就いてはNb/Co、V/Co等の多層膜を作製し、測定した結果、磁性層厚の変化に伴ってTcが異常な振る舞いを示す事を見いだした。解析の結果、この異常は超伝導秩序因子の位相差を如実に反映して表れている事が判明した。(3)に就いてはFeMn(AF)/FeNiCo(F)/Nb(S)/FeNiCo(F)の4層膜を作製し研究を進めた。FeNiCoバーマロイは保磁力が非常に小さく(0.1Oeの大きさ)磁化の反転が容易であり、またFeMn反強磁性体は片方のパーマロイの磁化反転を抑制するために付けた。F層の厚さを制御する事により、両者のF層の磁化の平行、反平行状態を小さい磁場でコントロールする事が可能になった。またS層の厚さを制御する事により抵抗温度曲線に僅かな違いが見られ、これはF層の磁化の平行、反平行を反映してTcに違いが現れている事が示唆された。しかしS層の層厚のコントロールを種々試みたが現在迄の所違いが現れてもF層の磁化の平行、反平行に伴うTcの変化は高々数10mKと極めて小さかった。
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