研究概要 |
イオンビーム照射・注入技術は半導体産業における不純物ドーピングや金属材料の表面改質技術など、広い分野で応用されている。しかしながら、イオンビームと固体との相互作用、あるいはイオンビーム照射によって引き起こされる材料特性の変化の機構については、まだ充分には解明されていない。本研究では、イオンビームと固体の相互作用およびイオンビーム照射による材料特性の変化の機構についての基礎的な知見を得る目的で、純Cu単結晶及びCu-lat.%Ni合金単結晶に、300keVのAu+イオンを室温で照射し、注入されたAu原子の深さ分布、及び照射損傷の深さ分布を,ラザフォード後方散乱測定法とイオン・チャンネリング法を組み合わせた方法により調べた。Au+イオンの注入量は2x10^<16>ions/cm^2であった。 純Cu単結晶及びCu-lat.%Ni合金単結晶における、注入されたAu原子からのラザフォード後方散乱スペクトルを比較すると、純Cuの深さ分布の半値幅は89nmでCu-lat.%Ni合金の半値幅53nmよりもAu原子が広く分布していることが分かった。またAu原子の注入による損傷の深さについては、純Cuの場合は506nmであり、Cu-lat.%Ni合金では336nmであった。一方、純Cuの場合、TRIM85コードによる注入Au原子の深さ分布の半値幅は29nmであり、損傷の深さは80nmである。純Cu単結晶とCu-lat.%Ni合金単結晶の場合で注入原子の深さ分布及び照射損傷の深さが顕著に異なる現象は、イオンビーム照射下における固体中の原子移動に関する従来から知られている機構のみで説明することは困難である。 我々は、本研究結果からイオンビーム照射下における結晶性固体中の原子移動に関して、これまでにすでに知られている機構に加えて、イオンビーム照射中に転位が移動し、そして、その移動する転位によって固体中原子の移動が引き起こされるという、これまでに報告例のない新たな機構が存在することを提案するものである。
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