研究概要 |
本研究の主たるねらいは、従来の定説であった「Gd-Ni系におけるNiの磁気モーメントがGd濃度の増加に伴い滅少し、2:1(ラーベス相)組成以上のGd濃度ではNiが磁気モーメントを消失することを詳細に検討し、更には、希土類の外殻電子が遷移金属の3dバンドを埋めて行くという"電荷移動モデル"を再検討すること」にある。そのためには、Niの3d電子(パンド)についての情報をミクロ・スコーピックに調べ(ここでは磁気コンプトンプロファイル(MCP)と磁気円二色性(MCD)を利用)、さらにマクロスコーピックな磁化と逆帯磁率の温度依存性を分子場近似を用いた局在モデルにより詳細に解析することが有効な手段となる。 平成13年度(初年度)は基本的に準備段階と位置付け、試料作製とMCPとMCDを試験的に測定してみることを目標にした。試料作製(結晶)は高周波溶解炉を用いてGdNi_2とGdNiの2組成について実施し、従来の磁化測定データ(磁気モーメントやキュリー温度)のバラツキが少なくはないことを考慮し、出来る限り単結晶を作製するように努力した。GdNiについては良質な単結晶を作製することができたが、GdNi_2の単結晶の育成は容易ではなく、グレインサイズのできるだけ大きい試料を作製することで妥協することにした。MCPとMCDを測定するためには放射光が必要となりKEKかSPring-8に課題申請を出し、採択される必要がある。MCPはKEKに課題申請し、MCDはSPring-8に申請した。幸い、両方とも採択され、初年度から実験することができた。MCPについては条件出し・問題点の洗出しに終わったが、MCD(2002A0305-NS1-np)測定は温度T=25Kで実施し、GdNi_2とGdNiにおけるNiの3dバンドには空きがあること(従って電荷移動モデルが(必ずしも)成立しないこと)、総和則による解析の結果、Niはそれぞれ0.2と0.1(μ_B)の磁気モーメントを持っており、且つ軌道角運動量成分をもっていること(これが3d遷移金属の磁気モーメントの特徴)とNiとGdの磁気モーメントが反平行に結合していることが判明した(SPring-8,Users Experimental Report, No.9,p.144&Phys. Rev. Bに掲載決定/2003.02)。平成14年度は、更にGdNi2についてMCDの温度依存性を測定し(2003/02に測定し、現在解析中)、KEKでMCPの温度依存性を測定・解析したところ、Gdのプロファイルと反平行に結合している成分があり、これがNiのMCPであることが判明した(KEK, Activity Reportに掲載&論文準備中)。結局、Niが磁気モーメントを保持していることをミクロスコーピックに実証することができた。
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