本研究は、非晶質中に微細結晶粒を分散させた複合材料の作製に、非晶質合金へのイオン注入で誘起される局所的結晶化を利用する方法について基礎的な検討を行う事を目的としている。注入イオン種には被注入試料中で化学的に不活性なHeを用い、注入対象としては金属-メタロイド型非晶質合金の代表としてFe-B(およびFe-Si-B)合金を、また金属-金属型非晶質合金の典型例としてFe-Zr合金系を選び、検討結果ができるだけ非晶質合金全般に適用できるように配慮した。 イオン注入装置への注入時温度の精密制御機構の付加、真空アニール炉の整備、スパッタ装置の改造を行った後、以前に予備的な結果を得ていたFe-B合金について補完的なデータを得るための注入を行った。またこれと並行して、rfスパッタ法による非晶質Fe-Zr合金膜の作製と熱的安定性の評価を行った。しかしながら、その後のイオン注入装置の故障により、Fe-Si-BおよびFe-Zr合金に関しては系統的な注入試料の作製ができなかった。このため、Fe-B合金に限定してこれまでの結果をまとめ、次のことを結論した。1.結晶相生成量は注入量とともに増加し飽和する。注入時温度を下げると結晶生成量の注入量依存性は緩やかになり、良い制御性が確保できる。2.臨界注入量以下では、注入後試料の近距離秩序や熱的安定性に有意な変化が見られない。3.生成量が小さい場合、結晶微粒子は磁気的に周囲の残存非晶質相から独立している。4.注入量の増加とともに生成微結晶粒の統合による成長が起こっている可能性がある。これは粒子サイズと生成量の個別な制御を難しくするので、複合材料作製プロセスとしては好ましくない。 今後は、早急にFe-Si-BおよびFe-Zrについて各種条件での注入を完了し、当初予定していた比較を行って、結果の一般性を検討する。また、上記4については対策も含め詳細に検討する。
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