Pb(Zr_<1-x>Ti_x)O_3には、強誘電正方晶相、強誘電菱面体晶相、および強誘電不整合相等の種々の強誘電相が存在する。これら相間の相境界の中で、x=0.48付近に現れる強誘電正方晶/強誘電菱面体晶境界は、温度軸に対してほとんど傾斜のない、モルフォトロピック境界と呼ばれている。最近、この相境界付近において強誘電単斜晶相の存在が見出され、圧電性との関係で、その物性等の詳細が検討されている。我々は、平成13年度、この強誘電単斜晶相の結晶学的特徴を透過型電子顕微鏡を用いて調べ、単斜晶歪が空間的にゆらいだ特異な分域構造の存在を明らかにした。そこで、本年度は、平均構造としての単斜晶相の結晶構造変化を粉末X線回折法を用いて調べるとともに、強誘電菱面体晶/強誘電不整合相境界での結晶学的特徴についても、透過型電子顕微鏡を用いて明らかにした。 上述の2つの研究内容のうち、まず、強誘電単斜晶相に関する結果を述べる。強誘電単斜晶相の平均構造については、室温から4Kまでの冷却時の粉末X線回折曲線を測定した結果、ある特定の回折ピークは半値幅の増大を示した後、極低温において明瞭なピーク分裂を示すことが分かった。さらに、各温度での回折曲線の解析から、試料中には、顕著な構造ゆらぎが存在するものの、ピーク角度から得られる単斜晶歪は秩序パラメーターとしての温度変化を示すことが明らかとなった。一方、強誘電菱面体晶/強誘電不整合相境界の領域には、Γ_<15>強誘電変位とM^<5'>反強誘電変位が共存する、非常に特異な強誘電相の存在が見出されたそ。特徴はM^<5'>反強誘電変位に関係する反位相境界が動的なゆらぎを持って観察されることである。今後は、強誘電単斜晶相での分域構造の温度変化、および新たに見出された強誘電相の詳細について明らかにすることを計画している。
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